東京高等裁判所 昭和26年(う)1812号 判決
弁護人控訴趣意第一点及び第二点(証拠能力なき証拠による事実認定及び審理不尽の違法)について。
記録を精査すると、原判決が本件犯罪事実認定の資料として司法警察員作成の差押調書を挙示しているが、右調書には水戸地方裁判所裁判官発付の差押令状によつて差押をした旨の記載あるに止まり、右差押令状が添附されて居らず、記録のその他の部分にも綴られていないことは所論の通りであるが、右差押調書の記載によれば、右差押が権限ある司法官憲たる水戸地方裁判所裁判官小室昌介発付の差押令状によつて適法になされたことを推定することができるのであるから、右差押令状が記録に綴られていなければ、適法に差押が為されたことが確認できず、従つて右差押が憲法第三十五条違反の不法な差押となることを前提とする所論は到底採用できない。尚右差押調書は刑事訴訟法第二百十八条によつて司法警察員が犯罪捜査の必要上裁判官の発する令状によつて差押を為したる結果を記載したものであることが明かであり、このような場合においては、裁判所が差押令状を発して差押を為す場合(刑事訴訟法第百六条以下)と異なり、その執行をしたものは執行に関する書類及び差押えた物を令状を発付した裁判所に差し出す必要はなく(刑事訴訟規則第九十七条参照)、右捜査の必要上発せられた差押令状及びこれにもとづく差押調書は、一般の証拠書類と同様各別に証拠能力を有し、差押令状の添附がなければ差押調書の証拠能力が否定されるものではなく、立証の必要ある限度に応じて両者を一括し或は各別に証拠調請求を為せば足り、右差押令状を義務的に裁判所に提出する必要はないものと解せられるのである。従つて原審が検察官から証拠調請求のあつた右差押調書のみについて証拠調を為し、差押令状について証拠調をしなかつたからといつて、右差押調書の証拠能力が否定されるものではない。
又前記説明のように、右差押調書の記載によつて、右差押の前提として差押令状が発せられたことが推定できるのであるから、差押令状なくして為された違法な差押であるとの主張が為されたような特殊な場合を除いては、原審において、差押令状の存否について特に審理する必要はなく、これをしないからといつて何等審理不尽の違法は存しない。それ故原審には被告人の自白を唯一の証拠として犯罪事実を認定した違法もなく、所論はすべて失当である。